【特集】 砥部焼窯元 大西陶芸(おおにし とうげい)

受け継がれる製法、熟練の職人、高度な技術。器作りの現場では、さまざまな技や人の想いが交差している。親子2代、一家で50年余り砥部焼を作り続けている『大西陶芸』を訪ねた。

ざらりとした質感の黒、立体的に浮かび上がった草の模様、陰影まで美しく描かれた葡萄や薔薇……、手仕事によるディテールへの細やかなこだわりが、存在感をいっそう際立たせる。そんな独自のスタイルをまとった器が印象的な『大西陶芸』。コンセプトは“品位とモダン”だ。

昭和45年、初代の大西光さんによって構えられた『大西陶芸』。大西家のもとを辿ると、徳島の大谷焼を作ってきた家系だったという。

「父は徳島・鳴門の出身。京都で陶芸を学んだ後、家業であった大谷焼の窯元に入って花瓶や壺を多数作っていました。当時はそういった花器の類が相当売れていた時代だったんです。ただ、父はしだいに「これからはきっと日用食器が求められる世の中になる」と感じ始めたようで、愛媛に磁器の産地があると聞いて、生活の拠点を砥部に移すことになりました。越してきたのは父と母、2人の姉と祖母の5人。もちろん知人は1人もおらず、まったくのゼロ地点からのスタート。その頃は砥部焼の窯元もまだ20~30軒ほどの規模でしたし、初めて訪れた場所で商売をするという大変な試みだったこともあり、父もかなり苦労をしたようです。他の窯元さんから窯を貸してもらったりたくさん力を貸していただいたという話を昔からよく聞いていました。工房が今のギャラリーを併設した形になったのは2007年のこと。それまではお客さまの反応が直接見られる場所がなかったので、ここが建てられて本当に良かったなと思いますね」。

現在制作のメインを担っているのは2代目の先(はじめ)さんと姉の白石久美さん、奥様の三千枝さん。担当する内容、作風もまったく異なる3人だ。

「小さい頃、近くにこれといって遊ぶところも物もなかったので、砥部の土をこねて人形やロボット、プラモデル風のものなんかをよく作って遊んでいました。僕はそんな風に工作をすることが好きだったんですが、姉は反対に絵を描くことがとても上手で。それぞれがその得意分野を伸ばしていって、今では僕がろくろなどの成形を、姉と妻がそれに絵付けや装飾を施してくれています。姉はどちらかといえばクールで引き締まったデザイン、妻は子ども用食器など素朴なムードのものを描くことが多いです。砥部焼の窯元としては珍しいかもしれませんが、家族内で分業するというスタイルですね」。

そんな『大西陶芸』の砥部焼は、器の個性と上品さを大切にしているという。

「砥部焼の面白いところは、素材が同じでも絵付け次第で窯元の個性が出てくるところ。白い器をキャンバスのように見立てると、そこにどんな模様を描くかで、いかようにでもその窯らしさを表現することができると思うんです。『大西陶芸』の器は形、模様、釉薬のどれをとってもさまざまですが、共通して大切にしているのは“品があって食卓を華やかにしてくれる”という点。ただの真っ白な器が良いという人もいますが、それはきっと出来る人の発想であってそうじゃない人もいると思うんです。食卓を華やかにするワンポイントとして、器の絵付けを活かしてもらえたら嬉しいですね」。

そんな自分たちならではの個性ある器を求めて出来上がったのが『イッチン』のシリーズだ。

「イッチンは化粧土をチューブに入れて絞り出し立体的に模様を描くという技法です。うちがイッチンをやり始めたのはもう20年以上前のこと。その頃イッチンは全国的にはポピュラーな技法でしたが、磁器にイッチンという組み合わせはほとんど見たことがなかったんです。砥部焼の中で差別化するためにも、自分たちらしい個性を見つけたい。新しいことをやってみたいという思いもあって始めてみたところ、とても評判がよく反響も想像以上のものでした。最初が椿でその次が葡萄、薔薇、草紋、桜……。色も白地に藍色の模様だけだったのが、しだいに緑や黄色、ピンクまで、自分たち流のデザインやお客さまからの要望に合わせて作り続けるうちに自然とバリエーションが増えていきました。特に葡萄柄は今でも人気で、性別や年代を問わずに選ばれているロングセラーです」。

器は長く使われるものだからこそ、使う人の心に残るものをひとつでも多く生み出したいと大西さんは語る。

「若い頃は気がつきませんでしたが僕自身が30代になって家庭を持ち、子どもと一緒に「おいしいね」と笑いながら食卓を囲んだとき、こうやって心に残るものだったり、使うことでその時間が楽しくなるようなものを作りたい、と心から思ったんです。器って流行に合わせてどんどん買い替えるものではなくて、割れない限りはずっと手元に置いておくものですよね。そして、何年たっても変わらず、同じ輝きを保っていく。絵画などの美術品と違って朽ちていくことがないし、実際に料理をのせて家族で一緒に使ってもらうことができる。そうやっていつまでも残しておけるというのは、砥部焼のすごく良いところだと思っています」。

個性を表現するいっぽうで時代のニーズに合ったもの、お客様が欲しいと思うものを作ることも大切だと話す大西さん。その背景には砥部焼の未来を見据えた想いがあった。

「父は、昔は壺や花瓶などの大物をたくさん作っていたけれど、世の中の需要が下がって日用食器にシフトしていくことにいち早く気がついた。いわば、先見の目があったんだと思います。砥部焼の伝統や技の継承ももちろん大切です。ただ、それに新しい発想を融合させるといったことにもこれからはもっと挑んでいきたい。父もそのときの時代に合わせて変化を恐れずにやってきた人間ですが、僕も“見せる”と”売る”の両方の目線から捉えたときに、今のニーズに合った求められるものを形にしたいという想いがあります。やっぱり、実際に使っていただくことが一番ですから。
そしてそれは砥部焼をこれからも絶やさず受け継いでいくのにもとても大切なこと。若い世代からも興味を持ってもらえる魅力ある産業として続いていくために、今、僕たちが基盤から整えていくことが重要だと感じています」。

—砥部焼の過去と現在、未来を見つめ、新しいものやこれまで見たことがないようなものにも挑戦を続ける『大西陶芸』。現状に甘んじることなく常に先を見る姿勢が生み出す快進撃は、これからも続いていく。—


大西陶芸
住所:愛媛県伊予郡砥部町北川毛796
電話:089-962-2456

Profile:大西 先(愛媛県出身)
昭和45年創業の『大西陶芸』2代目。“食卓を華やかに見せる器”を日々メンバーと共に作陶。
ろくろの成形技術の高さに定評があり、さまざまな形状の器を作り上げている。

よかったらシェアしてね!
目次
閉じる