【特集】砥部焼窯元 陶房Kibi(とうぼうきび)

愛媛の砥部焼と聞くと、真っ白でぽってりとした女性的な印象が強いが、梶原さんが手掛ける器はメンズライクでシャープ。伝統的な絵付けの砥部焼の印象とは異なるデザインが多い。

「器ひとつひとつが、インテリアとしても溶け込むデザインを目指しています。家の中にグリーンを置く人が多いので、器だけでなくインテリア発想の植木鉢なども作っています。作りはじめた頃は県内の植物屋さんに置いてもらっていたのですが、そのうちにいろんな方に知ってもらうようになって、工房に直接買いに来てくれる個人のお客様も増えてきました」。と、梶原さんは語る。

梶原さんは松山の専門学校(河原学園)の国際デザインアート専門学校の陶芸コースを卒業して現在に至る。そもそもこの道を目指したきっかけは、小学校の頃のある体験にあるという。

「小学校の卒業記念で、陶芸体験をしたんです。そこに教えに来てくれた砥部焼職人のカッコ良さに憧れて。陶芸体験を無料のボランティアでしてくれていたんですが、地域の子供たちのためにというボランティア精神が素晴らしいと思ったんです。その職人さんの人間性が魅力的に映って、僕も同じように陶芸をやってみたいと思った。作ること自体ももともと好きでしたしね。ちょうど地元に砥部焼という焼き物があったので、愛媛の専門学校の陶芸コースに進みました」。

専門学校時代に、非常勤講師として砥部から来てくれた先生が『ヨシュア工房』の竹西辰人さんだったという。

「僕にとっては、師匠だと思っている人が竹西さんです。竹西さんから砥部焼の基礎を教えていただきました。専門学校を卒業したあとは、砥部にある『千山窯』で10年ほど修行をさせてもらいました。独立したのはその後で2017年。『千山窯』での10年の間に、時間をかけてコツコツと今の工房『陶房Kibi』を作っていきました」。

専門学校時代と『千山窯』での10年を経て独立し、知識や経験も増えていったという梶原さん。

「専門学校では広くいろんなことを教えてもらいました。その後の『千山窯』での10年で、技術を磨かせてもらったし、仕事以外でも個展に出展することの大切さなどを教えていただきました。独立してからは、作風も徐々に変わってきていると思います。僕の作品の要である釉薬は、技術というよりは知識が必要となります。独立してからは、化学的な知識が増えていきました。釉薬って化学計算とかをするんですよ。でも「こういう釉薬を使ってみたい」と思っても、愛媛ではわからないことが多くて教えてもらえる人がいなかった。だから、京都の技術センターに行ったり、本を読み漁って知識を増やしていったんです。今では釉薬の種類などの知識の蓄積も増えてきました。たとえば、うちの工房の器シリーズ「錆墨(さびもく)」は、黒ですがただの黒ではありません。一回水にくぐらせると、黒がしっとりと光って見えるんです。そういう釉薬も、自分で知識を蓄積させて作っていったんです」

こうして生まれた「錆墨」シリーズは、『陶房Kibi』を代表する器に成長していった。

「ちょっと陶器っぽい錆墨シリーズは、水に濡れたときに光り方が変わる黒なので、刺身などを盛り付けたときにも映えると料理屋さんでも重宝してもらっています。最近では料理屋さんがインスタグラムなどで写真をアップしてくれることが増えていて、そのインスタ経由で、個人のお客様からお問い合わせをいただく機会も増えたんですよ。ありがたいですね」

「錆墨」シリーズをはじめ、梶原さんの作る器は流れるような釉薬にも特徴がある。

「流れて光る釉薬の模様が好きで、調合を変えながら徐々に今の流れる形に落ち着いていきました。目指しているのは、燃料を薪で焼いた穴窯の焼き物のような釉薬。燃料の木から自然にできる釉薬が穴窯の焼き物の特徴なんですが、2週間ぐらい穴窯で焼き続けるとビードロ(自然釉)のような模様が出来上がるんです。うちの工房は穴窯ではないのですが、その穴窯のビードロのような模様を求めて、今の錆墨シリーズの流れる釉薬に行き着きました。ただ、釉薬については正解もやり方もない。何種類かテストして、そのときに偶然流れるものが出くるんです。それを安定させるために調合を変えていって、やっと理想的な模様が出来てくる。テストはひとつの商品に2年ぐらいかけて200~300回ぐらいはしました。錆墨シリーズは作り上げるのに一番苦労したので、思い入れもあります。釉薬も買えば済むのだけど、自分で作ってみたかったんですね(笑)」。

そんな研究熱心な梶原さんが、これから挑戦していきたいことはどんなことなのだろうか?

「今、作っていて一番楽しいのは植木鉢。植木鉢は食器としての制限をなくすことができるので、自由度が高くて楽しいんです。うちの鉢を使ってくれるお客様は塊根植物と合わせる人が多いですね。塊根植物とは、アフリカやマダガスカルなど、温暖な地方の植物。わざわざこの工房まで買いに来てくださるお客様は、大量生産ではなく、手作りでしか出せないものを求めていらっしゃいます。植物を好きな人は、子供に愛情を注ぐように1点ものを欲しくなってくる人が多いようですね。これからは、インテリアとしても見てもらえる照明やタイルなども作っていってみたい。作品展も開いていきたいと思っています」。

—「インテリアとしても溶け込む砥部焼」を目指して、器以外にも幅を広げている梶原さんの、これからの挑戦を見守りたい。—


陶房Kibi
住所:愛媛県伊予市中山町佐谷甲414-1
電話:090-5278-2492

Profile:梶原英佑(愛媛県出身)
『千山窯』から独立後、2017年3月に伊予市中山町に「陶房Kibi」を設立。インテリア
に映える砥部焼をコンセプトに、和洋中どんな食事にも合う器や植木鉢などを手掛けている。

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